
「医療機器の営業職とは一体どんな仕事なのか?どういった種類の営業職があるのか?その実態について知りたいな〜」
こういった疑問を解決するための記事です。
医療機器業界に興味があり、就職や転職を考えている人のお役に立てる内容です。
✓この記事の信頼性
この記事を書いている私は医療機器メーカーの営業職として10年以上の経験があります。現在はエリア・マネージャーを兼任しており採用面接などにも参加しています。
医療機器の営業職の実態については漠然としか語られませんので、私の経験を活かしたいと思います。
医療機器の営業職について理解を深めるために、この記事の内容はこのように構成しました。
この記事の内容
- 医療機器の営業職とは?(求められること)
- 医療機器の営業職のより具体的な仕事内容
- 医療機器の営業職の種類とは?
- 医療機器の営業職で大切な心構え
医療機器の営業職とは?(求められること)
総合病院で行われているほとんどの医療行為には何かしらの形で『医療機器』が関わっていると言っても過言ではありません。日本の医療の大部分は医療機器で支えられています。
つまり、それらの医療機器を提案し販売する『医療機器の営業職』というのは存在価値が高い仕事だと言えるでしょう。
この章では「医療機器の営業職がどんな仕事か?」について掘り下げて解説します。
・多種多様な専門性が高い医療機器を提案する
・医療機器の営業職は人間関係が重要
・医療機器は売って終わりじゃない
ー多種多様な専門性が高い医療機器を提案する
医療機器の営業と聞いて多くの人はレントゲン、人工呼吸器、心電図モニターなどを提案するイメージをお持ちかもしれません。
そのイメージは間違いではありませんが、厚生労働省の資料によれば検査・診断・治療・リハビリのカテゴリに分けられる医療機器の分類は4000種類あると言われています。医療ドラマに出てくる花形の医療機器はもちろん、一般の人には知られていないニッチな医療機器まで多種多様です。
そのような医療機器を医療関係者に提案して、販売に繋げる役目が医療機器の営業職です。
ここで重要なポイントをお伝えしたいと思います。
一般人でも知っている医療機器でも、反対にニッチな医療機器でも、すべてにおいて『専門性は高い』ということです。
実際の医療行為と直接は関係のない営業職であっても、医療現場から求められる知識は比較的高いと考えておくべきです。
ー医療機器の営業職は人間関係が重要
医療機器の営業職は『機械』を販売するという理由から、医療機関のさまざまな部署に対して営業を行う必要があります。医師や看護師はもちろんのこと、医療機器を管理する臨床工学技士(ME)など多くの医療関係者と接点を持つことになります。
新規顧客をどんどん獲得していくよりも、同じ医療機関の中で幅広く人間関係を構築する営業スタイルを取っている医療機器の販売会社が多いと思われます。
✓各部署のコンセンサスを取る仕事
医療機器の営業職とは各部署の合意(コンセンサス)を取る仕事だと考えれば分かりやすいと思います。
例えば、最新の人工呼吸器を提案する際に重要な視点ではご覧のとおり。
①医師:その機能を必要としている
②看護師:その医療機器を装着した患者の管理をする
③臨床工学技士:その医療機器の保守点検(管理)をする
④事務:その医療機器を導入する費用対効果を考える
医療機器によっては更に関わる部署が増えることもあります。
私自身が呼吸器の営業職をやってきた経験からすると、ほとんどの医療機関で①〜④の合意を経て医療機器の販売に繋がります。
もちろん医師のトップダウンで医療機器が採用になることもありますが、各部署のコンセンサス(合意)が取れていなければ不満に繋がります。
そういった意味では、医療機関を広い視野で観察してきめ細かく営業ができる人が好まれると言えます。
ー医療機器は売って終わりじゃない
医療機器の営業職を目指すなら『医療機器は売って終わりではない』ことを覚えておく必要があります。最近の医療機器は販売してから『消耗品』に繋がるように設計されています。人工呼吸器の販売であれば回路やフィルター、消耗品がない医療機器でも『保守点検』や『拡張機能』の提案を行います。
医療機器の営業職は『医療機器』の販売、それに関係する『消耗品』や『保守点検』の2つの軸で営業を行っていく場合がほとんどです。
中にはデバイス販売後の消耗品で利益を稼ぐようなビジネス・スタイルになっている医療機器メーカーもあります。
✓消耗品に比重をおく場合はより高度な営業が必要
医療機器を販売したあとの消耗品から利益を得ている企業の場合、営業職の個人に求められる営業スキルはより高度になりやすいです。
デバイスの販売による売上計画の達成はある程度予測に基づくことができます。一方で、消耗品の場合はどれだけ患者に処方(使用)されるかに基づくため、逆算もしにくいです。消耗品で売上を達成する場合には、いかに医師からオーダーを入れてもらえるかがポイントになります。営業マンがどれだけ提案しても、医師に「納得感」が無ければオーダーが増えることは決してありません。このあたりが消耗品に重きを置く医療機器の営業職の難しさになるはずです。
◆医療機器の営業職のより具体的な仕事内容
ここまでで医療機器の営業職がどんなものか、ある程度分かった頂けたのではないでしょうか?もう少し具体的な内容に落とし込んで説明もしておきたいと思います。
分かりやすいように、病院を新しく担当して、製品を提案し販売に繋げるおおよその一連の流れを解説します。
・病院調査(エリア調査)
・売上目標達成のための計画
・ヒアリングのための面談
・製品の提案
・製品の説明会
・製品のデモ
・採用のためのフォロー
・採用後の説明会
・採用後のフォロー
私の経験としてはこのようなステップになることが多いです。
もちろん、これ以外にもやることがありますし、ゴール(採用)までに様々な課題のクリアや、不可抗力に発生する問題に対処する必要があります。
ー病院調査(エリア調査)
医療機器の営業職になると担当する病院を割り振られます。場合によってエリア一帯(例えば、東京都〇〇区、大阪府北部など)を任せられることもあります。
担当する病院ではどの診療科の患者が多いのか、KOL(Key Opinion Learder)は誰かなどを調べることからスタートします。
ー売上目標達成のための計画
病院で医療機器を購入する場合には『予算』を充ててもらうことが大切です。予算申請をする期間や、すぐに購入できる金額などを把握して、適切なタイミングで提案を仕掛けます。
ーヒアリングのための面談
病院の調査がおおよそできたなら、KOLの医療従事者に面談を依頼することになります。医療業界では「アポイント」という言い方を良くします。
実際に面談を行って提案したい製品に関する、現在の治療方法や課題に感じていることをヒアリングしていきます。
ー製品の提案
医療従事者が抱えている問題や課題の解決手段になりえる製品の提案を行います。ある程度、事前に相手の課題を予想して提案すると話がスムーズな場合が多いと思います。
ー製品の説明会
面談において医療従事者が製品を気に入っても「よし!すぐ持ってきて!」となることは稀なケースです。
基本的に関係部署に対する説明会を実施することになります。
ー製品のデモ
説明会を実施した後に製品を評価するために、医療機器を貸し出すことも多いです。これを医療業界では『デモ』や『臨床評価』と呼びます。
ー採用のためのフォロー
製品のデモも好評でKOLが納得していれば採用に向けて『申請書』や『稟議書』を上司や事務に提出してもらえます。
医療機器の営業マンは見積書を作成して、指示された窓口の代理店や病院の事務に提出を行います。
ー採用後の説明会
予算が執行されれば、製品を納品します。
納品後は改めて使用方法に関する説明会を関係部署にすることが多いと思います。
ー採用後のフォロー
医療機器は売って終わりではありませんので、定期的に使用に問題がないかなどのフォローを行います。その医療機器に関する、新しい治療の情報提供などは比較的喜んでもらえます。
予算申請や臨床評価など聞き慣れない言葉が出てきて難しく感じるかもしれませんが、実際にやってみると製品の知識さえあれば思いの外スムーズにできるはずです。
営業計画に関してとても重要ですので、別の記事を作成する予定です。
◆医療機器の営業職の種類とは?
医療機器の営業職を考えるときに『どの種類の営業職か』を考えることが必要になります。
この記事の読者がこれから医療機器業界に入ろうと思っているなら、なおさら重要ですので理解しておきましょう。
医療機器を販売する会社の営業職は、大雑把にいえば以下のように分類できます。
・医療機器メーカーの営業職
・医療機器商社の営業職
・医療機器代理店の営業職
・SPD営業
ー医療機器メーカーの営業職
医療機器のメーカー営業職は製品を製造する企業に所属して、自社の製品を医療関係者(ユーザー)に提案します。医療機関に直接提案することもあれば、代理店に提案を依頼するなど方法は様々です。競合製品がひしめき合うなかで、自社製品をなんとか販売しなければいけない難しさもあります。
✓専門営業職も存在する
医療機器のメーカー営業職のなかには、特定の分野に精通したスペシャリストと呼ばれる営業部隊が存在することもあります。医師は医療文献に基づいて、使用する医療機器や治療方針を決定します。医療文献(英文)や処方手順をしっかり理解して、医師の治療判断を手助けする高いレベルの営業職も存在します。
ー医療機器商社の営業職
医療業界商社の営業職は国内や国外の医療機器メーカーから取り寄せた商品を提案します。医療機器メーカーの立ち位置と近いですが、決定的な違いは取り扱える医療機器の多さです。
基本的にメインの自社製品を持たず、その時々でテーマになっている医療機器を扱うことが多いです。医療分野も複数にまたがっている場合もあり、商社の営業職は浅く広い知識をすぐに引き出せる能力が必要です。
✓準メーカーとしての立ち位置が多い
最近の医療機器商社は製造元の医療機器メーカーから専売特許を得ている場合が多く排他的です。海外の医療機器メーカーとパートナーになっていることが多く、専売特許を与える代わりに他のメーカーのものを取り扱わないような形になっていたりします。
ー医療機器代理店の営業職
医療機器代理店の営業職は、病院から注文を受けてメーカーや商社から商品を買い付けて納品することを主な仕事としています。医療業界では『ディーラー』という呼び名が一般的かと思います。病院運営の裏方である事務(用度課)との繋がりが強く、病院が希望する価格、メーカーが希望する価格の間に入って調整します。
一般的に医療機器を納品した代理店がその後の消耗品も販売するという『商習慣』が残っていることもあります。そのため、病院とメーカーのそれぞれの窓口になることを目指す場合がほとんどです。
病院との信頼関係が非常に重要なポジションであり、関係構築ができれば安定した売上を立てられます。
✓代理店にも専門営業職が存在する
メーカー営業と同じように、代理店営業にも専門的な営業を実施する部隊が存在することがあります。カテーテル治療や人工呼吸器を専門に扱う代理店も存在しており、メーカー営業に代わって治療の現場に立ち会うハイレベルな営業を実施している人もいます。
ーSPD営業
SPD営業とは、病院の中の物品倉庫を管理する営業職のことです。一般的に代理店営業から派生した営業スタイルとなります。医療機器を取り扱うことは少ないですが、それに関連する消耗品はすべて管理することになります。SPD営業では病院で使用する物品を一括管理することで、病院に対してコストメリットを提示し続けることが重要です。
SPD業務の契約を取れれば、院内で使用する物品を取り扱いできるようになるため長期的に売り上げが安定します。最近ではSPD業務だけをメインにしている代理店も出現しています。
SPD:Supply Processing & Distribution
◆医療機器の営業職で大切な心構え
ここまで読むと医療機器の営業職に『求められること』や『営業の種類』について理解が深まったと思います。
最後に『医療機器の営業職がやること』についての話をします。
突き詰めると、取り扱っている商品を提案して販売に繋げることですが、もっと大切な心構えについてお伝えしたいです。
・能動的に知識を高めよ
・常に利他的であれ
ー能動的に知識を高めよ
医療機器の営業職は自分の成長なくして成果を出すことはできません。
実際に医療業界に入れば身を持って経験することになりますが、医療従事者は情報をくれる営業マンから商品を買ってくれます。反対に安易に値段だけで勝負している企業の製品に飛びつくこともしません。
医療現場で働いている医師やコメディカルは学習意欲が強い人達が非常に多いです。その人たちの話を十分に聞いて、「なるほど!その手があったか!」と思ってもらえるほどの知識武装が必要です。自分から能動的に新しい情報をキャッチアップできる営業職は種類に関わらず、良い成果を出しやすい環境です。
とはいえ、多くの営業マンは基礎的な知識の習得で学習が止まります。
そこからどれだけコツコツと知識を増やせるかがポイントかと思います。
ー常に利他的であれ
医療機器の営業職は「売っておしまい!」ではないという話をしました。
医療業界はとても狭い世界です。その世界で自分だけが常に得をするような営業活動はいつか破綻します。医療従事者に『10個』を与えて、ようやく『1個』が返ってくるような感覚の営業職になることをおすすめします。
「10個も与えるものがない!」と思うかもしれませんが、本質的な価値は情報になります。
医療機関(病院)の課題を想定し、ユーザーに寄り添いながらヒアリングし、解決手段を提示していく中で多くを与えられるような営業マンは愛されると思います。
このとき蓄えた知識をひけらかすのではなく、しっかりと相手の話を聞いて必要なタイミングで「そっと」情報を出すだけです。常に利他的な営業を心がけると良いでしょう。
◆医療機器の営業職とは? まとめ
この記事では「医療機器の営業職とは?」にフォーカスしながら、その実態と種類について解説をしました。
医療機器の営業職へ転職を検討されているなら、ご参考にしていただければ幸いです。